● トラウマの脳スキャン画像
トラウマを持つ患者さんのフラッシュバックが起きている際の脳スキャン画像が
ベッセル・ヴァン・ディア・コーク先生の
「身体はトラウマを記録する」
の本の中にあります。 本のページで言うと114ページの「図4-7 フラッシュバッックのfMRI画像」です。
そのfMRI画像には著作権があり、ここに直接掲載はできません。 それでそれを参考にして独自にイラスト化をしました。 イラストですので、全て正確という訳ではありませんが、大雑把に脳の状態をお分かり頂けます。
イラスト中で灰色の部分が活性化している脳の部分です。 特に色の濃ゆい黒の部分が活動が活発化しています。 白の部分は活動停止です。
そのイラストから分かるように、全体として右側が活性化して、左側が活動を停止しています。 情動に関連する右脳が優勢で活動していることになります。
● 扁桃体
左右対称にある扁桃体は、右側が脳全体の中でも特に活動が活発化しています。 左はほとんど活動していません。 右側の扁桃体は危機を感じて、危険回避のための強力なストレスホルモンの分泌と神経反応を引き起こしています。
本の中で活発な扁桃体は「効率のよい煙探知機」に例えられています。 これにより、ちょっとした煙にも反応して猛火に巻きこまれることを未然に防ぐ役割を果たしています。 ただし、煙の臭いがする度に、狂乱状態に陥っていたら収拾がつきません。
● 背外側前頭前皮質
上の脳のイメージ画像で、その上部の背外側前頭前皮質の部分が白く活動していない事が分かります。 「この領域が作動しなくなると、人は時間の感覚を失い、過去、現在、未来の感覚がないまま、今の瞬間に閉じ込められてしまう」とベッセル・ヴァン・ディア・コーク先生は説明されています。
どのような悲惨な状況であろうと、いつまでもそれは続かず、必ず終わりがあります。 それが背外側前頭前皮質の領域の活動が低下すると、惨めな状況が永遠に続くように思えてしまいます。 それによりトラウマを負った患者は過去に囚われてしまって今を生きれていません。
● 視床外側核
脳スキャン画像のイラストで下部の領域が白くなって活動が停止しているのが分かります。 それは左右の視床外側核です。 視床は嗅覚を除き、視覚、聴覚、体性感覚などの感覚入力を大脳新皮質へ中継する感覚情報の中継局です。 その視床の中で、視床外側核は目の網膜からの視覚入力情報を受けて、大脳新皮質の感覚連合野にその情報を投影するところです。
トラウマによるフラッシュバックが生じているときは、視床外側核が活動を停止しています。 これは、PTSDの人は元より感覚過敏なので、感覚情報(視覚情報)を遮断して、脳の過剰な刺激に対する反応を防いでいます。 皮肉なことに大脳皮質からの抑制がかからないので、トラウマの再現(フラッシュバック)に脳が専任するようになってしまっています。 これによりまたトラウマの記憶が強化されて、いつまでも経ってもトラウマから脱出ができません。
脳としては、生物的生存を最優先させて種を守っていることになりますが、困ったものです。 もうすっかりトラウマからの時間も経っているにも関わらず、当時の状態を保持し続けようとしています。 「脳も少しは空気を読め」と言ってやりたくなります。
(2018/5/16)