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 キララ鍼灸院
円山
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 鍼灸でトラウマ、PTSD,うつ病を施術する
第6回  多重迷走神経理論(ポリヴェーガル理論)と実践
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概要

トラウマによるPTSDの身体の状態の理解を、大きく助けるのが、 多重迷走神経理論(ポリヴェーガル理論)です。

ネットで探しても、分るようで、分からなかった、その理論を分かり易く説明しています。

PTSD、うつ病の施術を行う為の考える基礎になります。
理論の解釈だけでなく、鍼灸の施術の中での具体的な実践についても説明しています。


多重迷走神経理論 (ポリヴェーガル理論)

メリーランド大学の研究者であったスティーブン・ポージェス先生が、1994年に「多重迷走神経理論」を発表しました。 その理論は、ダーウィンが1872年に出版した、「人および動物の表情について」などの生物的な考えを土台にして、自律神経の働きを説明します。

その理論では人を取り巻く、周囲の安全と危険に対する反応を、「社会的関係」を基にして哺乳類的な生理反応として説明します。


緊張を感じている時に、優しい顔を目にしたり、心が落ち着く声を聴いたりすると感じ方が変わる理由を説明してます。 無視されたりはねつけられたりしたら、急に激しい怒りに満ちたり、精神的な虚脱状態に陥ったりする理由も分かります。


またその理論は、覚醒を調整する為の体のシステムを強化することに焦点を当てた、PTSDの治療の新たな取り組み方も提唱しています。


ベッセル・ヴァン・ディア・コーク先生はトラウマの患者さんの症状の理解と治療の為に、この理論を高く評価されています。 鍼灸師にとっても患者さんの症状の理解と治療法についてや、東洋医学的治療の意味を現在西洋医学の生理学的視点で理解する上で大きな助けになります。



羊の群れ


自律神経支配の3つの状態

多重迷走神経理論(ポリヴェーガル理論)は、迷走神経(副交感神経の主たる神経)と交感神経とで作られる自律神経支配の3つの状態を説明しています。



腹側迷走神経複合体

一つは、腹側迷走神経複合体が優勢になる状態です。 安心、安全でリラックスできる社会的な活動の場で優位になります。 副交感神経と交感神経の調和が取れており、リラックスでき、くつろぎが生まれます。

腹側迷走神経複合体により社会的な場の観測と自己表現のコミュニケーションに使われる顔、喉、中耳、咽頭の筋肉が適度に活性化された状態です。

肺、心臓、胃、腸などの呼吸、循環、消化吸収の内臓器官も可不可なく適切に活動しています。


交感神経優位

腹側迷走神経複合体の状態で、ちょっと緊張すると、声が裏が裏返ったり、高くなったりします。 心臓の動悸も早くなります。 副交感神経と交感神経の調和の取れた状態から、交感神経が高まる緊張状態に移行が始まります。

更なる緊張や危機が迫ると次に段階に進みます。 2つ目の交感神経優位の支配です。 緊急時の闘争/逃避を作りだします。

交感神経が高まると心拍数は上昇して、心臓はバクバクでエンジンは全開で直ぐにも走りだせます。 無駄なエネルギーを消耗を避けて、闘争/逃避にエネルギーを集中できるように、胃腸の活動は低下します。


背側迷走神経複合体

3つ目が背側迷走神経複合体です。 闘争も逃避もできない時に、最終手段として凍りつく・死んだふりを作りだします。




凍りつく・死んだふり

凍りつく・死んだふり時に交感神経と副交感神経がどうようになっているか、ベッセル・ヴァン・ディア・コーク先生の 「身体はトラウマを記録する」 の本の中に明確に記述されていません。 ネットを探してもいろいろと説があって混乱するばかりです。


説1

例えば、ある説1では、「交感神経支配は低減して、過剰副交感神経優位で全身の代謝を徹底的に減らす」



説2

説2では、「極度の交感神経系緊張が脈拍,血圧,呼吸の低下をまねく。」



説3(ピーター・ラヴィーン博士)

説3の「ソマティック・エクスペリエンス(SE)」のピーター・ラヴィーン博士の説では、「闘争も逃避も叶わないとなると、過剰な交感神経の覚醒から生命を守る為に、副交感神経も同時に覚醒し始める。 交感神経と副交感神経の同時活性化が起きる。 それにより生命維持システムに過剰な負荷がかかり、システム自体が崩壊するのを防ぐ為に、シャットダウンする。」とあります。 シャットダウンは身体の凍りつきです。 私はシャットダウンするとの部分で、ピーター・ラヴィーン博士の説を採用します。


ちょっと気になる点は、動物の例で考えると、「肉食動物に食べられるかどうかの瀬戸際で、緊迫して時間もないのに、一時的に副交感を上げるような、まどろっこしいことはしないで、神経伝達速度の速い交感神経だけを、下げた方がてっとり早いのに、そんなことをするかな~」です。



シャットダウン、レジュームモード

それでも本の中の基底に流れている「身体に刻まれ留まるトラウマ」の考え方に繋げるには、交感神経と副交感神経の同時活性化後のシャットダウンという一手順増えた過程があった方が理解し易いです。


最終的には同じ結果になります。 それは背側迷走神経複合体の状態では交感神経と副交感神経の両方の活動の低下状態と考えています。 PCなどのレジュームモードであったり、省エネモードです。 心拍数は低下、呼吸も低下、胃腸の運動も低下で最低の生命維持部分だけだ動いています。



背中が凍りつく

背中が凍りつく

昔から怖い体験をすると「背中が凍りつく」と表現をします。 恐怖で固まることです。 背側迷走神経複合体の状態です。 背中の筋肉が冷えて固まっている状態です。 心拍が低下して、心臓から背中の筋肉への血液供給が低下して筋肉に血が通っておりません。 それで冷えていると考えています。


背中のお灸

それで、あるトラウマを抱えておられる患者さんの背中の背骨に沿って、肩甲骨の周りに広範囲にお灸をすると、その後がすごく楽になるとコメントされました。 そのことからも筋肉を緩めると、副交感神経の活動が高まるので、その治療が有効であると分かります。


それと同時に背骨の内臓に近い下側というか裏側には、交感神経幹と言って交感神経の大きな神経の束が走っています、範囲は首の高さか尾骨までです。 お灸をすることで、その交感神経にも刺激が伝わって、交感神経の活動も高まることになります。



レジュームモードからの復帰

結果として、副交感神経と交感神経の両方が高まり、背側迷走神経複合体の状態である「背中が凍りつく」のレジュームモードからの復帰になります。 残念ながら、パソコンと違い、「ボタン一発」という訳ではありませんが、それでも回復も向けての重要な施術の一つになります。





多重迷走神経理論(ポリヴェーガル理論)の実践:
最近のキララ鍼灸院の鍼灸施術
 

2020年の1月時点の話です。 多重迷走神経理論をキララ鍼灸院の鍼灸の現場でどのように使っているか説明します。

PTSD、うつ病の患者さんの施術の通じて、改めて納得したことがあります。 どの患者さんも首、肩、背中、腰の筋肉がカチカチで、広範囲に筋肉のコリがあります。

背側迷走神経複合体の状態である「背中が凍りついた」状態にあります。 当時の辛い体験が、筋肉のコリの記憶として残っています。


回復を妨げる

このコリが24時間途切れることなく続くストレスを作ります。 そのストレスが脳の海馬と偏桃体に損傷を与えます。*1) 同時にその脳の傷を埋める脳の神経幹細胞の成長を阻害します。*2) いつまで経ってもメンタル症状が回復できない状態になっています。


多重迷走神経理論(ポリヴェーガル理論)の実践:鍼灸施術

キララ鍼灸院では、背側迷走神経複合体の状態の筋肉の記憶である、コチコチに固まった、首、肩、背中、腰のコリを徹底的にハリ施術で取り除きます。

大体3回から4回の施術で、コリの8割ほどを取り除きます。 同時に自律神経の脳の中枢に対する刺激も行います。

コリが取れると、背側迷走神経複合体である「背中の凍りつき」の記憶、PCでいうレジュームモードからの復帰が始まります。 身体と心の回復の始まりです。 ストレスが脳の神経幹細胞の成長を阻害しないので、脳の傷の回復が始まります。 自律神経の偏りも、修正が始まります。


背側迷走神経複合体の自律神経の調整

背側迷走神経複合体の記憶の残渣である自律神経の異常興奮を調整しています。 ピーター・ラヴィーン博士の説である交感神経の過剰興奮と副交感神経の過剰興奮の2つを刺絡を使い同時に調整します。



メンタル疾患の脳の傷
 

多重迷走神経理論(ポリヴェーガル理論)と「メンタル疾患の脳の傷」とは深い関連性があります。

テーマを見ると少し違うと思われるかもしれません。 しかしその内容の「ストレスが脳に与える影響」と「脳の神経幹細胞の働き」は、背側迷走神経複合体にあるメンタル疾患でも同じことが起きています。

「メンタル疾患の脳の傷」の詳しい記事が、キララ鍼灸院ホームページにあります。 参考になると思います。 是非読んで下さい。


「脳の傷」の詳しい記事は、「うつ病は脳の傷、鍼灸と食事と運動による標準回復計画」です。 


「脳の傷の記事」にジャンプ、ここをクリック






注釈: 情報源のホームページ、参考文献

青色の太文字をクリックすると情報源のホームページに飛びます。


1) コルチゾールに長期間さらされると神経細胞が委縮する

脳科学辞典の内容の抜粋
海馬は大脳辺縁系の一部で、記憶・学習能力に関わる脳部位である。海馬はストレスに対して非常に脆弱であるとされ、心理的・肉体的ストレスの負荷により長期間コルチゾールに曝露されると神経細胞の萎縮を引き起こす。


2) 神経幹細胞が脳の傷を埋める

第40回日本脳卒中学会講演 シンポジウム 2016年より抜粋
成体大脳の側脳室周囲組織,いわゆる脳室下層と海馬歯状回には,自己複製能と多分化能を保持した神経幹細胞が生涯にわたって存在し,新たな神経細胞を産生し続けることが,ヒトを含めた様々な哺乳動物種において確認されている。 内在性神経幹細胞による神経新生は,脳損傷により亢進すること,そして損傷部位の再生に寄与することが明らかとなっている。



(2018/5/22)

多重迷走神経理論(ポリヴェーガル理論)の実践を追加 (2020/1/24)



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