左脳と右脳は脳梁と言われる太い神経線維で繋がれて相互の情報の伝達を行っていますが、それでも左脳と右脳の機能の独立性というか制限性があります。 それは左脳だけが言語処理の能力を要します。 右脳は直感力、音楽力、図形力、全体を見渡す力、空間認知力や感覚記憶、情動記憶を司どります。
左脳側に刻まれた個人的な体験などの記憶は、左脳が言語処理機能を使って言葉で表現できます。 しかし、右脳は言語処理の機能がありません。 その為に右脳に保存された感覚記憶や情動記憶は、言語処理の機能が右脳にないので、一貫性のあるストーリーとして言語化して話すことがきまません。
例えば、赤ちゃんは生後から3歳くらいまでの発達過程では、右脳が先行して形成されます。 まだ左脳が十分に形成されていないので、右脳を主に使用します。 3歳を過ぎると左脳の成長が急速に高まり始め、言葉を話す能力も高まり始めます。
よく4歳までの記憶は消えて残らないと言われていますが、それは生後から3歳から4歳くらいまでは右脳主体で成長して、その間の記憶は主に右脳に記憶されるからです。 非言語の情報、即ち感覚記憶や情動記憶が記憶されます。
ただし右脳には言語処理能力がないので、4歳までの記憶は語ることはできません。 それで一見記憶が消えたようにみえます。 「三つ子の魂、百まで」の言葉にありますように、お母さんの肌の温もりや、母の愛情や、周りの人から受ける愛情などの、その後の人生を決定づけるような、重要な記憶は消えることなくしっかり残っております。
トラウマ体験時は生命に危険を及ぼす緊急事態であったり、普通は起きないような信じられないことが起こっているので、その時には映像、音、臭い、思考、身体の感覚などが脈絡なく断片化した状態で記憶されます。 それは主に右脳に記憶されます。
更に悪いことにトラウマ記憶は、「三つ子の魂、百まで」の言葉と同じ情動の記憶なので、何年、何十年経ても、当時の生々しい記憶として留まりづづけます。 ちょっとでもその記憶を想起されるようなことがあるとその時の情動の記憶が蘇り(フラッシュ・バック)続いて自動応答の手続き行動を引き起こします。 それにより、トラウマ記憶がまた強化されてます。
記憶というのはみんなが思っているほど頑健なものでなく、過去の嫌な記憶でさえもその断片を語ることで、だんだんと首尾一貫性した物語となり、自分にとって語るに都合のよい物語として記憶を書き換える事ができます。
トークセラピーなどは過去の嫌な記憶を繰り繰り返し語らせて、その時に浮かんだ嫌な感情に慣れを作り、更に少しづつ危機を想起しない都合のよい記憶としての書き換えや、物語性による書き換えを期待する暴露治療です。
記憶が左脳にある情報であれば、繰り返し語ることで物語化が進み、自分にとって都合の良い記憶に書き変えることができます。 それが右脳の情動記憶であれば話は違ってきます。
その点をベッセル・ヴァン・ディア・コーク先生はトークセラピーの限界として指摘しています。 情動の記憶が言語能力をない右脳にあれば、断片の記憶を語りを通じて物語に高めことはできません。 そのことによって嫌な記憶を受け入れ可能な記憶に書き変えができないといっています。 そこにトークセラピーの効果の限界があります。原理的に右脳にあるトラウマの情動記憶を書き変えることができないことを、脳の仕組みを基に指摘されています。
嫌な事を思いだす事で(暴露)トラウマの記憶が蘇り、その身体反応が強化されることがPTSDの特徴です。 時は過去のトラウマの時点で止り、堂々巡りとなり、症状の改善は進みません。
トラウマのPTSDの治療としては、トークセラピーでは限界があるので、それ以外の治療が求められます。 その1つがニューヨークの世界貿易センターのテロの被害者が自身の症状の改善に効果があって、1位に選んだのが鍼による治療であり、2位のマッサージです。*1)
(作成日 2018/4/29)
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